- 「竿の感度が違うよ!」という一言から
- 幸一の自己との戦いが始った。
- アタリがある度に幸一の口から出る言葉は
- いや言葉というよりは
- ため息という表現の方が適当だったかもしれない。
|
- 「よーし来たでーー!」
- 亮がコンバットスティックと呼ばれる高価な竿の先端を大きく曲げてバスの動きに合わせるように
- 体をうねらせる。その高価な竿のせいだろうかその亮の動きはブロードウエイのミュージカルで
- 指をはじきながら後ずさりしていくダンサー達の優美な踊りの様にも見える。
その竿の先端と水面を結ぶピンと張られたナイロンラインが目まぐるしく動きまわる光景は
- 何度見ても興奮させられるものだ。
突然大きな水の弾ける音と同時にバスが姿を表した。亮の竿先から流れ出るナイロンラインは緊張
- を一気に無くす。その緊張を取り戻すかの様に亮の左手が回転し始める。
となりで釣りをする幸一の方は、じっと水面を見つめているばかりであった。
突如、幸一が大声で笑い始めた。
- 「俺なんでこんな事しよるん?!バカじゃん!!これって!!」
- リズミカルに地面を踏みしめながら、声を張り上げる。
- 「バカじゃん!これって!」「バカじゃん!これって!」さらに足踏を繰返す。
今回の企画が難しかったのかと考えさせられた。無論、竿を使わずにバスを釣るという事自体、
- 本来の釣りの楽しみを味わっていあるかどうか・・・。魚が釣られるまでを科学的に考え、魚の
- アタリの伝達役である竿を無視して直接人間の手で感じ取る手段を選んだ事がいったいどうだと
- いうのであろうか・・。
「なかなかいい型でー!」取込んだブラックバスの口から針を外しながら、亮が満面の笑みを浮べる。
- 「今日、最高の型かも・・」と亮が言った。魚の口を持って、じっと眺めこみながら「ほら!」
- 最高のスマイルを浮べる亮がそこにあった。
「竿の感度が違うよ!」全てはその一言から始った。
人間が長い歴史の中、魚を釣るために創りだした道具、竿。
- その竿の研究されつくされた”しなり”とういうメカニズムに、今回のこの企画を通じて、
- 敗北感を覚えるばかりである。
その時ある友人の一言を思い出した。「あっ!合わせ切れ!!俺の竿、堅いから・・・」。
- この時の一言がもう少し早く思い出せたら、こんな企画は笑い話で終っていただろう。
言うまでもない、今回の企画、ほぼ100%が合わせ切れであったのだから・・・・。
- 「あーー来た来た!!」お気に入りの竿を手にした幸一の笑顔と、亮の笑顔がそこにあった・・・。
|
|